あなたの会社は叔向型か、子産型か──鐘に刻まれた法律と金庫に眠る就業規則

労働問題

こんにちは。

神奈川県鎌倉市で社会保険労務士をしている北村です。

金庫に眠る就業規則

理美容教育出版様の『ribiyo.』3月号に「金庫に眠る就業規則 ― 見せないルールの危険性」という記事を執筆させていただきました。

就業規則は作っただけでは効力を発揮しません。

労働基準法第106条と労働契約法第7条によって、事業主には就業規則を労働者に周知することが義務付けられています。

就業規則が周知されていない場合、就業規則の効力が否定される可能性があります。

ところが、現実には就業規則を棚の中にしまいっぱなしだったり、存在自体を労働者に教えていない経営者もいます。

“見せない就業規則”を都合よく適用しようとすると、労働者とのトラブルが起こったときに経営者が不利な立場に立たされる危険があります。

実際、裁判や労働基準監督官による臨検の場面では「就業規則を適切な方法で周知していたか」が問われます。

古代中国でも“ルールを公開するかどうか”は大きなテーマだった!?

就業規則を周知しないことの危険性については、多くの弁護士の先生や社会保険労務士が説明しているのでそちらに譲ることにして、私は春秋左氏伝にある面白いエピソードを紹介したいと思います。

古代中国でも“ルールを公開するかどうか”は政治の根幹を揺るがすテーマだったようです。

その昔、鄭の国が法律を鋳込んだ鐘を作ろうとしました。鐘に法律を鋳込めば、貴族が独占していた法律の内容を一般の国民も知ることになります。

それを知った晋の国の政治家である叔向が、鄭の大臣である子産に手紙を送りました。

叔向の手紙にはこう書かれています。

~前略~

法律ができたことを知れば、民はお上を敬わなくなるでしょう。

誰もが争い心を抱いて、条文を根拠にして、抜け道でうまくやろうと考え、治めきれなくなるでしょう。

~中略~

争う根拠を民が知るようになれば、礼などかなぐり棄てて条文を引き、一字一句の末まで争い合うでしょう。違法者の案件はますます増えて、賄賂が至る所で行なわれ、子(あなた)の生存中に、鄭はきっと衰退するでしょう。「国亡びんとすれば、法を定ること多し」と肸(わたし)は聞いていますが、このことを指すのでしょう。

これに対して子産は次のように答えました。

吾子(あなた)のお言葉に従おうにも、僑(わたくし)はふつつか者。子孫のことまで考え及べません。吾(わたし)はこれで当世の手当をします。お言葉は受けかねますが、御好意は忘れません。

『春秋左氏伝 下』小倉 芳彦 (翻訳) 岩波文庫

子産は理想の未来より、今現在の状況に必要な手当を行うべきだ考えたわけです。

叔向は周の文王のような聖人による政治、つまり“徳のあるリーダーが導けば民は従う”という理想主義の政治、一方、子産は“人は完璧ではないからこそ、ルールが必要”という現実主義の政治を志していると言えるでしょう。

叔向の政治か、子産の政治か、どちらを志しますか?

私は皆さんに「皆さんは叔向の政治か、子産の政治か、どちらを志しますか?」と聴いてみたいです。

私自身は商の湯王、周の文王、武王などの聖人には及びもつかない普通の人間です。

そして私の周りにも聖人と呼べる人はいません。

ときには善いことをし、ときには過ちを犯す人々の中で暮らしています。

だからこそ、私たちのような普通の人間が安心して働き、経営できるように、就業規則は見える場所に置くことが大切だと考えています。

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